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乳房再建ナビ

Q&A

乳房再建に関するさまざまな疑問にお答えします。

<監修>
昭和大学病院 ブレストセンター長 乳腺外科教授 中村清吾 先生
がん研有明病院 形成外科部長 澤泉雅之 先生

※質問と回答は一般的な例です。それぞれの患者さんに適した乳がんの治療や乳房再建の方法は異なります。
実際に乳房再建術を受けることを検討される場合は、乳腺外科医や形成外科医などの専門医にご相談ください。

乳がんの手術後に乳房再建術を受ける場合(二次再建)、どれくらいの期間をおいてから行うのがよいですか?

半年から1年程度の期間をおき、乳がんの手術の傷あとが落ち着くのを待ってから乳房再建術を行うのが理想的です。ただし、手術後に抗がん剤療法放射線療法を受けている場合は、まず乳がんの治療を優先することが勧められます。

抗がん剤療法やホルモン療法などの治療中でも、乳房再建術は受けられますか?

抗がん剤療法中は、副作用で血液中の白血球の数が減少するため、傷が治りにくくなったり、感染症を起こしやすくなったりします。また、その他の副作用により、精神的な負担も大きい場合があるので、まずは乳がんの治療を優先することが勧められます。抗がん剤療法の終了から2~3ヵ月程度様子をみて、白血球の数が正常に戻るのを待ってから乳房再建術を行うのがよいでしょう。
ホルモン療法は再建術そのものには影響しないので、治療中でも再建を行うことができます。ただし、治療中(通常5~10年間)はホルモンの影響で体形や胸の大きさが変わりやすいため、治療終了後に左右の胸のバランスを整える手術が必要になることがあります。

放射線療法の後でも、乳房再建術は受けられますか?

放射線を照射すると、皮膚やその周辺組織が弱くなったり、伸びにくくなったりするため、ティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)ブレスト・インプラント(シリコン製人工乳房)を使った再建は難しく、形のよい乳房に仕上がらないことがあります。また、自家組織による乳房再建は比較的行いやすいのですが、放射線の照射によって、血管が固くなってつなぎにくいなどの理由で、仕上がりがよくない場合があります。
なお、いずれの方法でも、皮膚や組織の血流が悪くなるために、手術後に傷の治りが遅くなったり、壊死などの合併症が起きやすくなったりするので、注意が必要です。
このような放射線療法の乳房再建術への影響は、終了後1年以上経過すれば小さくなるといわれています。しかし、これから乳がんの治療を開始する場合には、主治医に再建の希望を伝え、よく相談することが大切です。

一次再建を受けられないのは、どのような場合ですか?

一次再建が可能かどうかは、手術前に行う検査の結果に基づいて、主治医が判断を行います。しこりの大きさや、リンパ節転移の状態など(乳がんの病期)によって、再発のリスクが高いと判断される場合には、一次再建は勧められません。まず術後療法(薬物療法放射線療法)で乳がんの治療に専念することが重要です。

いわゆる“トリプルネガティブ”でも、乳房再建術は受けられますか?

“トリプルネガティブ”注)というサブタイプに分類される乳がんは、ホルモン療法抗HER2療法が効かないため、一般的に予後が悪く再発リスクが⾼いといわれています。
しかし、トリプルネガティブの患者さんが乳房再建術を受けることが、乳がんの再発に悪影響を及ぼすという報告はありません。ほかのサブタイプ同様に、再建を検討してよいでしょう。

注)がん細胞の3つの増殖因子であるエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2ともにがん細胞の表面に存在しない(ネガティブである)乳がんのことをいいます。

喫煙者は乳房再建術が受けられないというのは、本当ですか?

手術でできる傷あとは、通常、末梢血管の働きによってきれいに治ります。ところが、喫煙でニコチンが体内に入ると、末梢血管を縮小させ血行が悪くなるため、一般に喫煙者は手術の傷が治りにくく、感染症を起こすリスクも⾼まります。このようなリスクは、乳房再建術だけではなく乳頭・乳輪の再建の手術でも同様です。また、喫煙者は乳頭の先端まで血液がめぐりにくいため、形成した乳頭が壊死して取れてしまうこともあります。
喫煙は、これら手術時のリスクだけではなく、乳がんのリスクであることも知られているので、再発予防のためにも禁煙が勧められます。

乳房切除術(全摘術)を何十年も前に受けたのですが、乳房再建術は受けられますか?

乳がんの手術から何年経過していても、乳房再建手術を⾏うことは可能です。ただし、1970年代以前に⾏われていた、大胸筋と小胸筋を含めて広範囲に乳房を切除する手術(胸筋合併乳房切除術)を受けている場合は、ブレスト・インプラント(シリコン製人工乳房)による再建は困難であるため、自家組織による乳房再建が適しています。

高齢でも、乳房再建術は受けられますか?

高齢の方でも、ほかに大きな病気がなく、全身麻酔がかけられる健康状態であれば、基本的に問題はありません。
ただし、高齢者の場合、乳房が下垂や萎縮をしていることが多いため、自家組織による乳房再建のほうがより自然な形で再建できますが、この方法は手術時間や入院期間が長く、体への負担が大きいという問題があります。一方で、ブレスト・インプラント(シリコン製人工乳房)では形の再現に限界はあるものの、衣服を着た状態で不自由しない程度の仕上がりは期待でき、体への負担が少ないため、インプラントによる乳房再建を選択する高齢患者さんもいます。

乳房再建術を受けた後でも、妊娠・出産はできますか?

将来的に妊娠・出産を考えている人は、乳房再建の術式に注意が必要です。自家組織による乳房再建のうち、お腹の組織を使う腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう)穿通枝皮弁法(せんつうしひべんほう)は適していませんが、背中の組織を使う広背筋皮弁法(こうはいきんひべんほう)や、インプラントによる乳房再建であれば問題はありません。
また、乳房再建術を受けた後に、妊娠・出産した場合は、再建を受けていない側の乳房が、再建を受けた側より授乳中に一時的に大きくなったり、授乳終了後も元の大きさに戻らず左右のバランスが崩れたりすることがあるので、注意が必要です。

乳がんの治療中に再発や転移がわかった場合、乳房再建術は受けられますか?

乳がんの治療中に再発や転移がわかった場合は、乳がん治療に専念することが基本です。再発や転移の治療に必要となる抗がん剤療法では、免疫力が低下し、乳房再建術の際の全身麻酔がさらなる免疫⼒の低下を招くためです。

ブレスト・インプラント(シリコン製人工乳房)は破れて中身のシリコンが流れ出しやすいと聞きましたが、大丈夫でしょうか?

かつて豊胸用に使用されていたブレスト・インプラントで、中身に液状シリコンが入っているものがありました。このようなインプラントには、外力が加わると破れやすく、液状シリコンが体内に流れ出してアレルギーを起こす危険性がありました。
しかし、現在、保険適用のあるブレスト・インプラントは丈夫な構造になっています。中身のシリコンは、コヒーシブとよばれる粘度が高いジェル状で、たとえ破れてもすぐに中身が漏れ出したり、体内に広がったりしないように工夫されています。

ブレスト・インプラント(シリコン製人工乳房)の寿命は、何年くらいですか?

ブレスト・インプラントは半永久的なものではなく、将来的には破損することもあり、入れ替えや摘出が必要となる可能性があります。その寿命は、インプラントの種類、手術の方法、患者さんの健康状態やライフスタイルなどに左右されますが、10~20年後の入れ替えを視野に入れておくのがよいでしょう。
なお、もしインプラントが破損した場合には、長期間放置すると炎症などのトラブルを起こす危険性があります。そのため、インプラントの変形や破損がないかを調べる目的で、約2年に1回はMRIまたは超音波による検査を受ける必要があります。

協力:NPO法人E-BeC(エンパワリング ブレストキャンサー)